2015年1月3日土曜日

阿鼻叫喚年末ダイブ 二日目 しょの壱

第二日 Jetty 透明度20m 水温28.5℃ 波なし ウネリなし

 エアアジアが結果的には海に墜落した日だ。
全く人間と言うものは何時その生命活動を終えるのか誰にも判らんものです。
故に生きているうちに、何事もやり過ぎる程に生きなきゃ勿体無いのだ。死ねば死ぬのだ。
そして我々にとってはG3sが安全停止を放棄し、自らを潜水艦から発射されるハプーンミサイルに模した、年末かくし芸を披露した日でもある。


 大体朝から嫌ぁな前兆があった。
丸メロ軍曹は私の投宿地から100mも離れていないバジェットホテルに泊まっている。
皆との待ち合わせ地に向かう途中で借りた車で奴を拾う事にしていた。
この日は交通渋滞を鑑み早めに奴のホテルに着いた。
携帯電話で連絡する。
丸メ「凄い光景が見られるから食堂に来い。ついでに珈琲を奢る。」との連絡を受けホテルのレストランに向かう。
朝食ビュッフェ真っ盛り中だ。
圧倒的多数が中国大陸からの北京語を操る団体観光客だ。同じ様な中国語でも台湾、香港、北京と異なる。
因みに私は挨拶程度の会話ならそれぞれ多少の判断がつく。
ってか、着ている服のセンスで大体判る。
丸メロ軍曹に促されて、ビュッフェ料理が並んだテーブルを観察する。
う、ぅぅぅ噂では聞いていたが、凄い。
大皿に盛られた料理をチャンコ◎が、指で摘んで少し齧っては大皿に戻している。ぁぁぁあ、味見だ。
レストランの壁際で、本当に親父が痰を吐いている。壁に痰がぁぁぁぁぁ粘性ナノネ。
うぁぁぁ~どんな精神修行精進料理やぁ。
恐ろしくも珍しい光景を見せてもらった。
こいつ等は絶対に我々と同じ人類ではないぜ。
眼福ならぬ眼凶って奴か。
あまりの凄惨な光景に丸メロ軍曹はホテルにクレームを入れる気も失せていた。
いつも大きな顔をしているインドネシア人観光客が隅のほうで小さく食事をしている。
良いですか、皆さん!ホテルにチャンコ◎が泊まっている時のバイキング・ビュッフェは止めておきましょうネ。

 先月可視光線受光器の修理を行ったばかりのG3s壱号はショップで待機。半年前の文芸春秋を持ち込んでの読書だ。
そーか、そーか。G3s壱号の目は未だ擬体ではなかったらしい。
足の裏に[PVC Made in Thailand]の刻印があるとか、耳の後ろにUSBの差込口があるというのが専らの噂だ。
 いつも通りにショップに着き準備を始める。
『仕事&おせっくすぅは家に持ち帰らない。』が信条のG3s弐号は時々思い出しながらも自分で装備の準備をしている。
インフレータホースに1stステージから伸びた低圧ホースを接続するのに苦労をしている。
そのくせ、私の1stステージを自分のモノと勘違いして持ち出して徘徊を始める。
私は自前の1stステージを探して彷徨う。
G3s弐号、王子、丸メロ軍曹嬢、そして私の4名が船に乗る。
G3s弐号「一本潜ったら、一旦港に帰って、又出かけて二本目を潜るんじゃろ?」
くっ、此のジジイ、既に先月弩S将軍しゃまからレクチャーを受け、今月の失楽園宴会でも私から説明を受けているはずなのに…
都合の良い所だけしかメモリに入れていない・・・。
むしろ「オレは今を大事にしてるから、過去のことも未来のことも全く考えてないんだ」って考えか。
Jettyポイントに船が近付いた時に海面上に2匹のイルカが跳ねる。イヤな予感が。
トランベンで水深1mもない所でもイルカの群れを見た。それから一年と数ヶ月後にダイバーが死亡しているしな。

一本目
 フィンで砂を巻き上げて他のダイバーの迷惑にならん様、潜行後砂地に移動してフィンピボット、中性浮力の確認をG3s弐号に施す。
絶対にオーバー・ウェイトなのに、潜行時にマトモなインフレータホースの操作を面倒臭がって重めにしてやがる。
G3s弐号はスティングレイの如く海底を這うのだ。
 昨日に引き続きそれなりに獲物がいる。G3s弐号は皆と一緒に写真を撮りまくる。
不安の影などなくコスプレ嬢を撮りまくる元気なスケベカメラ小僧だ。
時たま、リードする私に近付き過ぎて、私にフィンで蹴飛ばされる。無論私は知っていて容赦なく蹴りを入れて居るのだ。
そうそうたる生物を観察し、撮影を終えた我々は浮上作業にかかり始めた。
潜行中にTusaの最高機種コンピューターを絶対に見ないG3s弐号からも残圧50barというサインが出た。
くそっ、このジジイは自分のエアだけはキッチリと監視している。
最大深度で10m前後だったとはいえ、安全停止は行うのだ。
打ち合わせ通り桟橋のド真ん中で柱に棲む生物を観察しながら浮上を始める。
幸い柱間でのウネリも全くない。
深度6mを切ったので安全停止のハンド・シグナルを出す。
各員にそのシグナル確認を促す。
っと、G3s弐号がOKサインと共に浮上を開始してしまった。
(あ~~~ぁ、犯ってくれたな・・・)
最初はソーユー気分だった。
残る王子と丸メロ軍曹にバディで安全停止の後に桟橋を離れて予定通りに浮上せよ。とサインを送る。
こーゆー時、王子は敏感に察知しOKサインを直ぐに出す。
こーゆー時、丸メロ軍曹は海面に浮かぶG3s弐号の下半身を見つめるだけで、タンクを叩いても気付かない。
王子が丸メロ軍曹を突いて現世に引き戻す。
浮上するジジイは暫し放置して、両名がOkサインを出すまで、同じサインを発する私。
誰を切り捨て誰を生かすかは、危機管理時の非情なる鉄則。
で、彼らが安全停止中に私はユックリとジジイ目指して浮上する。
フィンを捕まえて引き降ろす魂胆だ。
私はG3s弐号のインフレータホースを掴みエアを抜こうとする。
そうこうしている間に完全浮上。ってか、ジジイはインフレータに空気を放り込み続けているし・・・。
G3s弐号はオシッコをしてる時の犬みたいな目でボソリと語る。「私ちゃん、ウェイトを落としたからもう潜れんヨ。イヒイヒイヒ」
人生の酸味甘味を喰いまくった先輩からの暖かくも情けない声が、後進への試練を提供してくれる。
「テメエはそうして桟橋の柱に掴ってろ。とこしえにな。絶対に移動すんな。」そういう意の言葉を少々丁寧に翻訳して語る。
私は再び潜行。エアは未だ十分に有る。
おっひょー!海の中では其の感性の悪さが一段と眩しく光る丸メロ軍曹が・・・G3s弐号の落としたウェイト4kgを回収に降りているではないか。
陸ですら“話し方”がローラに似ていると言われた丸メロ軍曹は海中ではネオ・ローラになるのだ。話し方だけな。

王子は私に両手を開いてから丸メロ軍曹に続いて再び潜行を始める。
私も続いて丸メロ軍曹に追い付く。
(さぁ、今この海域で間違いなく最もピエロな丸メロ軍曹よ、どうぞ、その4kgウェイトを抱えて浮いて見せなさいよ。)
ドラマ「半沢直樹」の金融庁の役人黒崎駿一的気分が私の全身を覆うのだ。
実は私は大昔にドライスーツで自分のウェイト分以外で24kgの重量物を引き上げるという無残・無慈悲な訓練を受けた事がある。
簡単に揚げられるものではない事を知っている。
丸メロ軍曹の「アヒィィィ?!」と言う情けない声が聞こえる。
奴が下手を打ってBCDに空気を入れる前にウェイトを奪う。そして再度バディでの安全停止を“厳命”。
安全停止中に王子のエア残圧が残り僅かでプッと噴いたのは覚えている。エエィ!王子よ、イザとなれば丸メロのオクトでもレギュでも奪っちまえ!俺が許す。
つまり、丸メロ軍曹は落ちてきたG3s弐号のウェイトを見て、バディの状況を省みずに英雄心で再潜行を行ったわけだ。
三人で浮上した後にG3s弐号を回収に向かおうとしたが姿が見えない。
ケッ!我々を回収に来た船に既に乗っていやがるのだ。

浮上後、G3s弐号の人生終末確信犯的行為は放置して丸メロ軍曹嬢に静かに御小言。
「ジジイが落としたウェイトを回収しようとしたのは見事なる心がけであった。んだが、次は絶対に犯るんじゃねぇ。」
丸メロ軍曹は状況が判っていないのか、気楽に笑いながら「ハィハィわかりました。象が目の前で脱糞するがの如く、ジジイがウェイトを落としたのを見たんで拾おうって・・・。」と話を遮る。
ったく、此れだから中途半端に頭の良い奴は・・・
思わず怒鳴る。
「テ前ェはバディを殺す気か?!テ前ェは良かれと犯ったんだろうが、そんな行為はヘルメットもルールも無しでバイクを乗り回す此の国のドアホライダーと全く同じだ。田舎者のヒーローに成りたいのか?!」
G3s弐号が話すには、「ウェイトベルトが何故だか勝手に堕ちた→浮いてもた→ざまぁ・・・」
其の時は私もその話を信じベルト落下処置を講じた。

ソノトキハ・・・ダガ、ココデオワルワケハナカータッ。

0 コメント:

コメントを投稿